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奈良地方裁判所 昭和57年(行ウ)6号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五七年六月三日付で、原告の別紙物件目録記載の各土地の昭和五七年度固定資産課税台帳登録価格についての審査の申出を棄却した決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  請求原因

一  本件決定の経緯等

1  原告は、別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という。)の所有者であり、その固定資産税の納付義務者である。

2  大和郡山市長(以下、市長という。)は、基準年度である昭和五七年度の固定資産税の課税標準たる価格(以下、固定資産評価額という。)を、本件土地(一)について一六六万一四〇〇円、同(二)について一四六万四四〇〇円と決定して固定資産課税台帳に登録し(以下、本件登録価格という。)、同年四月五日より同月二五日まで右台帳を関係者の縦覧に供した。

3  原告は、昭和五七年四月三〇日に、被告に対し、本件登録価格について不服があることを理由として、審査の申出をし、口頭審理を申請した。

4  被告は、同年五月一九日および同月二六日に、原告及び大和郡山市固定資産評価審査員等の出席のうえ、口頭審理をし、同年六月三日に原告の本件審査の申出を棄却する決定(以下、本件決定という。)をなし、右決定は同月四日に原告に通知された。

二  本件決定の違法性

1  手続における違法

(一) 固定資産評価審査委員会制度が定められた趣旨は、審査手続にできるかぎり対審的・争訟的構造を取り入れることによって、その手続を公正なものとすると同時に、審査請求者の権利の救済を全うしようとするものであるから、右委員会は、審査請求者の便宜のために自らまたは処分庁を通じて、審査請求者が評価に対する不服事由を明らかにするために合理的に必要とされる範囲で、評価の根拠、方法、手順等を了知できるような措置をとるべきものであり、口頭審理が行われる場合には、口頭審理の手続において、右措置をとるとともに、審査請求者に反論の主張、立証の機会を与えるべきものである。

(二) 本件決定の手続は、以下の事由により、違法である。

(1) 被告の委員である浅田重治は、昭和四六年五月まで、市の税務課長をしており、また、本件決定当時、被告の書記の津村義治は市の税務課長補佐、同じく金居秀知及び福井寛は税務課の課員であって、被告は、公正な判断をなすために必要な第三者性を欠いていた。

(2) 被告は、市長の答弁書の写を原告に送付せず、原告の要求にもかかわらず、市に交付させる措置をとらなかった。

(3) 原告は、本件審査申出の理由として

(ア) 大和郡山市(以下、市という。)の基準地の評価額の上昇率が一二四パーセントであるのに、本件土地の評価額の上昇率が一五三パーセントとなる根拠を明らかにされたい、

(イ) 市から、本件土地の評価と、他の土地の評価とについて、比較検討できる判断資料の提示を求める、

(ウ) 本件土地は、開発業者の開発がなされた宅地であり、大和郡山市開発指導要綱に基づく開発業者の諸負担がなされており、結果的には原告の負担となっているので軽減免除措置を求める、

という三項目を主張した。

(4) ところが、被告は、昭和五七年五月一九日に開催された口頭審理の第一回期日において、市に、

(ア) 標準地が九条町五七六番地の三四であること(以下、本件標準地という。)、

(イ) 評点が一平方メートル当り一万一七〇〇点であること(一点一円である。)、

(ウ) 本件標準地の評点は状況の類似した九条町五二四番地の二三(以下、九条ケ丘という。)と同一であること、すなわち、本件土地周辺は、以前は地目が田であったのが昭和五六年に造成されて地目が宅地となったものであり、宅地評価は今回が初めてであるので、本件標準地を設定し、これと状況の類似した九条ケ丘との比準等をもとにその評点を決定したこと、

(エ) その評価は固定資産評価基準に従い算出されたものであること、

という程度の抽象的な理由を説明させたにすぎず、原告の審査申出に対する回答を求める措置をとらなかった。

(5) 同月二〇日及び同月二六日に、被告は、市の税務課の課員の立会いで現地調査を行ない、市から事情聴取を行なったが、原告には、いずれにも立会いの機会を与えなかった。

(6) 同月二六日に開催された原告との協議会において、被告は右現地調査の結果を上程しなかった。

(7) 右協議会において、原告から、本件標準地と本件標準地と状況の類似するという九条ケ丘との差異についての詳細な主張があったにもかかわらず、九条ケ丘と比較して本件標準地につきどのような基準により評点が決定されたか、また本件標準地も本件土地と同様に市の開発指導要綱に基づく諸負担を負っているところ、その負担の度合等について斟酌されたかどうか、斟酌されるべきものではないとすればその理由等について、被告自らまたは市を通じてこれを明らかにする措置をとらなかった。

(8) 被告は、原告が本件土地周辺及び市中心部の固定資産の登録価格と比較検討できる判断資料の提出を求めたにもかかわらず、被告自らまたは市を通じて提出する措置をとらなかった。

2  実体における違法

本件決定は、以下の事由により、違法である。

(一) 状況類似地の不適正

(1) 被告は、次の理由により原告の審査申出を棄却した。

(ア) 本件土地の評価について、その標準地は九条町五七六番地の三四で、評点は一平方メートル当り一万七一〇〇点と付設され、比準率は一点当り一円として算出されている。

(イ) 本件標準地の評価額は、これと状況の類似した九条ケ丘との比準、不動産鑑定価額への到達率、国の相続税評価ヘの到達率、売買実例価格、交通機関までの距離等をもとに決定した。

(ウ) 附近、住宅団地形成の形態からみるとき九条ケ丘を状況類似地として設定したことは適正であったと判断する。

(2) しかしながら、本件標準地と九条ケ丘とでは次の違いがある。

(ア) 本件標準地は住居地域であるのに対して、九条ケ丘は第一種住居専用地域である。

(イ) 宅地面積は、本件標準地が一〇〇平方メートル以下で棟間一メートルであるのに対して、九条ケ丘は二〇〇平方メートル以上である。

(ウ) 本件標準地は、谷間で金魚池を盛土造成した土地であるのに対して、九条ケ丘は丘陵地である。

(エ) 本件標準地にはバス路線等が直接はないのに対し、九条ケ丘には、バス路線(枚方―郡山)がある。

(オ) 本件標準地は団地として未完成であるのに対し、九条ケ丘は団地として完成している。

(カ) 本件標準地には行政サービスがなく、道路、公園、浄化槽等を自己負担し、また維持管理費を負担しているのに対し、九条ケ丘には行政サービスがある。

(二) 平等原則違反(憲法一四条、地方税法六条、七条)

(1) 固定資産評価が、市内全域にわたり、公平、均等になされていない。しかも旧市内と比較し新興住宅地が高い評価がなされている。

(2) 固定資産評価の基礎となっている不動産鑑定も、公平、均等になされていない。また数人の鑑定人の鑑定をもとにしなければならないのに一人の鑑定人の鑑定によっているのは、方法として問題である。

(3) とくに旧市内において、商業地域、第一種住居専用地域は、原告の住居地域より宅地の利用上の便宜からみて有利な地域にあるにもかかわらず、その評価が低い。

第三請求原因に対する認否

二1(二)(4)の事実は否認し、その余の事実は認める。主張は争う。

第四  被告の主張

一  本件決定の手続における適法性

1  口頭審理手続は、職権主義を基調として、迅速に評価額の適否を判定するための行政手続の一環であり、準司法手続構造は必ずしも要請されていない。

2  本件決定の手続には、なんらの違法もない。

(一) 請求原因二1(二)(1)の主張について

被告の委員である浅田重治には、法律上の欠格事由はなく、また十数年前の役職のために公正が維持できないわけではない。書記は審査について権限を有していないので、市の税務課の課員であったとしても、審査決定については影響がない。

(二) 同(2)の主張について

被告の自由裁量に委ねられているため違法の問題を生じない。また、答弁書の内容は、第一回期日における市の説明と同じである。

(三) 同(3)及び(4)の主張について

被告は、標準地等を明確にして本件土地がどのような資料にもとづき、どのような方法で評価されたかを明らかにしており、原告において、評価額が高いか安いかを比較して検討しうる判断資料は充分であったから、原告の審査申出の個々の理由について、回答を求める必要はなかった。また反論の主張・立証の機会は、協議会によって与えられている。

(四) 同(5)及び(6)の主張について

被告の自由裁量に委ねられているため、違法の問題を生じない。

(五) 同(7)の主張について

(三)に述べたように、原告の審査申出の個々の理由について、回答を求める必要はなかった。

(六) 同(8)の主張について

守秘義務から、原告以外の特定人達の取引事例、取得価格、登録価格等は公表できない。

3  本件決定については、実体上なんらの違法もない。

(一) 請求原因二2(一)の主張について

本件標準地と九条ケ丘とでは、近鉄九条駅への遠近という要素もあり、状況類似地として適当である。

(二) 同(二)の主張について

(1) 新興住宅地では、不動産鑑定評価額の増加が著しいため、旧市内よりも不動産鑑定評価額への固定資産評価額の到達率を控えているにもかかわらず、具体的決定額の増加率が旧市内を上回っているものである。

(2) 資格を有する不動産鑑定士が一般に容認されている評価方法により評価しており、なんら問題はない。

(3) 都市計画法上の用途区域と固定資産評価ないし不動産鑑定との間に直接の関係はない。

第五  証拠(省略)

物件目録

(一) 大和郡山市九条町五七六番地の四二

宅地 九七・一六平方メートル

(二) 大和郡山市九条町五七六番地の四三

宅地 八五・六四平方メートル

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